弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義」

「嫌われる勇気」は対話式叙述が読んでてかったるいけど、おばかな青年をばかだなあと思って脳内反論しつつ読み進めるうちに、自分でわかった気になる対話式特有の作用があって、押し付けられる主張より自ら見いだす理屈に愛着を持つ裁判官の性質をふまえた対話式準備書面には可能性があると思ってる。21:19 - 2017年2月3日

対話式準備書面を試みるとしたら、ものわかりのわるい聞き手を登場させて、依頼者の望みを曲解したり見当違いの解決策を言わせたりさせて、読み手が脳内で違うだろ!と突っ込みつつ思わず依頼者のための解決を考えてしまうみたいな誘導をしたい、けど、現実は某判例誌の某連載のようなことになりそう。9:13 - 2017年2月4日

要は、まさるさんが獄中記で「一級の宣伝工作の場合、「答え」(こちらにとって都合のよいシナリオ)をこちらから提示してはなりません。こちらからは、断片だけを提供し、それにより受け手が自ら組み立てたシナリオがわれわれのシナリオに偶然一致するという方向にうまく誘導することが適切です。9:16 - 2017年2月4日

人間は他者から押しつけられたものよりも、自ら組み立てたものに強い愛着を感じるという本性があるからです。」と書いていることに尽きるんだけど。文章力があがれば、しらけさせる対話式じゃない誘導する対話式が書けるのかなあ。「20歳の自分に受けさせたい文章講義 」読めば書けるかしら。9:18 - 2017年2月4日

で、「20歳の自分に受けさせたい文章講義」を読んでるんだけど、期待したことが期待した以上に書いてありそうで思わず小休止。書くべき内容は所与でなく、書く作業との相互作用で形成される思考そのもの…って思えば、保坂みもあるし、藤田宙靖の「法は所与でなく課題」という言葉にも連なってくる。11:07 - 2017年2月12日

 

というわけで、対話式準備書面なんて冗談のように思いながら読んだけど、この本は弁護士のための文章術としてとってもお勧めです。だって、文章は「主張と事実と理由」だっていうんですよ。準備書面の書き方について語ってくれてるとしか思えないじゃないですか! 

あのアドラー本の対話式も、高い文章力のもと意図されたものだとよくわかります。

そして、「作用と反作用」、「説得(押し)より納得(引き)」、「知識の球拾い」。

20歳の自分に受けさせたい文章講義 (星海社新書)

金融法務事情2059号 死後認知と遺産分割後の価額請求

東京地裁平成28年10月28日判決

死後認知の訴訟係属中に相続人ら(被相続人の妻と子)が遺産を妻が全て取得する旨の遺産分割協議を行い、その後に認知子が妻に対して民法910条に基づく価額請求したことについて、配偶者と子は法定相続分が別系統という理由で棄却した判決です。この場合の価額請求の可否は積極消極の両説あり、消極説を採ったということですが、どうでしょう、バランス悪い結論という気がします。

判例タイムズ1431号 監護者指定、遺言、遺留分減殺

・名古屋高裁金沢支部平成28年4月7日決定

別居中の父母宅を行き来し共同監護的な状態にある子の監護者指定申立を却下した原審判を取り消し、差し戻した高裁決定です。似たような却下例は大阪家裁でもありましたね。

・東京地裁平成28年3月25日判決

遺言書の書面上には押印がないものの1枚目と2枚目の間の契印がある遺言について自筆証書遺言として有効とした裁判例です。

・東京地裁平成28年2月26日判決

贈与契約書の偽造などを主張して争った一次訴訟の敗訴後に行った遺留分減殺請求について、消滅時効経過後とした裁判例です。

梯久美子「狂うひと 『死の棘』の妻・島尾ミホ」

庄野の太宰もどき問題がまだ私の中でモヤモヤしているうちに読み始めたとこで庄野がけっこう登場してくるのでへえ~となって、しかし、この世代のひとたちって私生活で無茶やってそれをそのまま書くのがブンガクってほんとに思ってたんだろうか。ただ書いただけじゃなくて、文章修行の上でのこととはわかるけど、ネタのためにわざわざややこしい恋愛するとかどうなの。庄野は、早いとこ、婚外恋愛路線から、郊外の平和な家庭生活路線に移って、しかも長生きしてよかったよねえ。思うに、最初に郊外に引っ越ししたのが大成功だったよね。

そして、この本自体もすごい。追い続けていると事実の方から近づいてくること、「漂流記」で感じたことをここでも。あと、評価をさしはさまないで書いてくれている抑制を感じて、ただわかった事実だけを差し出してくれているのがありがたい。

でも電報や紙片はきっと自作自演に違いないし、この夫婦は気が知れないどっちもどっちで、マヤさんがとにかくお気の毒。

ちなみに、小島信夫もちょっと出てきたので、前から読もうと思ってた小島信夫を私はとうとう読み始めたけど、これがまた、さっぱりわからないんだ小島信夫…。意味がというより、よさが…。

 

狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ

高中正彦「弁護士の経験学 事件処理・事務所運営・人生設計の実践知」

ちょっと古典スタイルという感もありますが、わたしが座談スタイルの読み物が好き(行間から本音が立ち上るので)ということもあってか、けっこう参考になりました! おすすめです。 

弁護士の経験学  事件処理・事務所運営・人生設計の実践知 (東弁協叢書)