弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

判例タイムズ1444号 説明義務

東京地裁平成29年2月9日判決

インプラント治療の説明義務違反を否定し、治療終了を通告して診療を拒否したことの正当な理由があるとして歯科医師の損害賠償責任を否定した裁判例です。正当な理由に関する事情として、患者の暴言、治療の進捗状況(最終段階まで実施されていた)、治療費の不払いが挙げられています。

金融法務事情2085号 家族信託

渋谷陽一郎「民事信託と成年後見の選択と認知症対策」

民事信託、いわゆる家族信託が万能のように売り出されている向きがありますが、「民事信託の利用は、後見制度を不要とするような魔法の杖ではない。」

メリットデメリット、制度間の調整策など。

 

ケース研究331号 遺産分割、面会交流

・片岡武「遺産分割調停運営における留意点」

特に、調停に代わる審判を利用する場面と、そのときの当事者への説明事項。不成立にするために必要なプロセス。

・小澤真嗣「両親間の暴力や高葛藤が問題となる面会交流に関する米国の最新の研究と実践」←これ、この分野に一言あるヒトは目を通しておくべきと思います。

2014年シンクタンク報告。

親密なパートナー間の暴力(Intimate Partnet Violence。IPV)。力と支配のために一方的に暴力を使う加害者と、配偶者との相互作用的な葛藤の中で暴力を振るう加害者を分けて分類すべき。

DVの発見と保護の提供、紛争解決手続、子の監護に関する決定というプロセス。手続の目的に照らしたDVのスクリーニングとアセスメントのプロトコルの必要性。

DVのタイプ論。

力と支配に基づく暴力、暴力による抵抗、対等な関係性の中で状況的に起こる暴力、関係を破綻させる出来事が引き起こす暴力、という分類。

監護親によるゲートキーピング。促進的ゲートキーピング、制限的ゲートキーピング、保護的なゲートキーピング、バーチャル・ゲートキーピング。レッテル貼りではなく仮説設定のツール。

米国では裁判所が命じた面会交流を拒否した子を裁判所命令違反として逮捕の例もあるそう。

司法的ケースマネジメント。治療目的は両親の養育技能を高め、適切な親子関係を形成して、健全な子の発達を促進すること。裁判所命令は、従わないときに強制可能でないと、治療の効果は弱まってしまう。一方的に命じるのではなく、合意内容を裁判所が命令することが多い。

間接交流の積極的意義。

・「監護親の再婚により面会交流が中断した事例 面会交流の調停条項の決め直しをどう考えるか」

離婚後の単独親権者が再婚して養子縁組して共同親権となった後は別居親への親権者変更はできない(実務、多数説)。

間接強制の可能な債務名義のメルクマール、既に債務名義がある場合の調停の進行上の留意点。

同席調停の意義。相手の顔を見ないまま対立関係が続いていると、相手の否定的イメージが肥大化するが、同席によって等身大の相手イメージを取り戻す。調停委員との信頼関係が強くなり、現実的な解決の方向性が見えてくると、同席できるようになる。

家庭の法と裁判13号 面会交流、宝くじと財産分与

・窪田充見「面会交流の現状と課題」

フラットに見た現状と、原則例外という判断プロセスへの問題提起です。

原則例外という判断構造において、子の利益は十分に反映されているか? 「子の福祉を害する特段の事情」、「子の利益に直接かつ明白に反し子に有害であることが明らか」、という例外の限定的な規定は、子の最善の利益と齟齬しないか。

面会が原則的に子の利益にかなうという前提は論証されているか。

原則例外という判断構造が安易に流れないか。

そして、面会交流に関する実証的研究は十分か。

・東京高裁平成29年3月2日決定

夫が婚姻中に宝くじで約2億円を当選したことと財産分与について。原審は当選金を固有財産としているようですが(「一定の優位性ないし優越性」という文意はよくわかりませんが)、これを変更し、宝くじの購入資金の原資が小遣い(家計由来)であるとして夫婦共有財産とした上で、分与割合を夫6:妻4とした高裁決定です。

佐藤正午「鳩の撃退法」

この方、はじめて読みました。重たいものが読めない時期で(完全に抜けたと思えるので書きますが、しばらく脳の調子がわるく、ものが読めませんでした。私はこのブログを知っている人からはいろいろ読んでてすごいとか言われることがあり、それほどでも?と思ってますが、しかしものを読むというのは、読む時間の確保もさることながら、読んだものを消化する気力体力も、読むためには必要なのだと、それを欠く事態となってみれば、ものが読めるって実にすごいことだなあと、かつての自分を仰ぐような気持ちにもなったのでした。でも、もう大丈夫です。)、軽くおもしろいものを読まなくてはと一か八かで選んだコレ。ちょっと伊坂っぽい、そして、創作と現実が混淆する雰囲気、桐野の「IN」も思い出し、私の好みからするとつじつまがキレイに合いすぎなのですが、ダムから上がった女性については想像にまかせているあたりのサジ加減は好き。

鳩の撃退法 上 (小学館文庫)鳩の撃退法 下 (小学館文庫)