弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

判例タイムズ1205号 MRSA・鑑定の解釈

最高裁平成18年1月27日第二小法廷判決
平成5年当時81歳の女性が脳梗塞で入院中、MRSAに感染し死亡したことから医師の責任が問われた事案。過失を否定した原審を破棄差戻した最高裁判決です。
●事実経過
平成4年12月末から発熱→ケフラール投与開始
1月11日 7日採取の喀痰から黄色ブドウ球菌ケフラール止め、エポセリン、ビブラマイシン、スルペラゾン、ホスミシンを順次投与
2月1日 1月28日採取の喀痰からMRSAミノマイシン、バクタ追加等々、しかし発熱、MRSA検出継続
3月18日バンコマイシン投与開始(やっと!)
その後ホスミシン、バクタ、ビクシリン等追加等々、抗生剤7種類に。
抗生剤を止めたり追加したりしつつ経過し、8月31日多臓器不全により死亡
バンコマイシンの投与時期
原審は、鑑定書に“安易なバンコマイシン使用には耐性菌を生み出すという問題があり、実際の臨床経過でもMRSAが消失しているので医師らの処置が不適切とはいえない”旨部分を採り、意見書2通に2月1日段階でバンコマイシンを投与しなかったことの是非について記載がないことをとらえて、2月1日段階でバンコマイシンを投与しなかったことに過失がないとしました。
これに対し、最高裁は、鑑定書には“MRSAにはバンコマイシンが第一選択薬で、2月1日段階でバンコマイシンを投与していればより早くMRSAが消失した可能性がある”旨述べる部分もあること、意見書2通に記載がないことをもって過失を否定する根拠とならないことを述べて、原審の判断は経験則又は採証法則に反するとしました。
●多種類の抗生剤の投与
原審は、意見書から当時の医療現場の実情では多種類の抗生剤投与が一般的であったとうかがわれるとして、多種類の抗生剤投与に過失がないとしました。
これに対し、最高裁は、院内感染防止マニュアルには多種類投与が戒められていること、意見書にもそれに沿う記載があること、医療現場で一般的であるということがただちに医療水準にかなうものと判断することはできないこと、鑑定書にこの点について記載部分がないからといって過失を否定する根拠とならないことを指摘し、「実情としては多種類の抗生剤を投与することが当時の医療現場においては一般的であったことがうかがわれるというだけで、それが当時の医療水準にかなうものであったか否かを確定することなく、医師らが多種類の抗生剤を投与したことに過失があったとは認め難いとした原審の判断は、経験則又は採証法則に反するものといわざるをえない。」としました。
●この判決は鑑定書や意見書の内容を分析する記述が多くて、引用してバシッと決まる部分がほとんどないのですが、鑑定書や意見書の記載の解釈を論じる場面や、医療現場の実際と医療水準について論じる場面で使えそうと思いました。