弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子の読書日記

判例時報1943号 キシロカインでショック・チマメ状脳動脈瘤

・福岡高裁平成17年12月15日判決
患者が内視鏡手術の前処置としてキシロカインの投与を受け、アナフィラキシーショックで死亡したことについて、問診・観察義務、救命措置義務の懈怠を認めた高裁判決です。
原判決は、医師の過失を否定して患者の請求を棄却していました。
ここで、問診・観察義務違反とは、キシロカイン投与前及び内視鏡挿管前に血圧測定を行っていないこと、救命義務違反とは、内視鏡室に救急カート等を配備していなかったこと、具体的な救命措置が適切であったとは認められないことです。
ちなみに、本件事故後の翌月、本件の教訓から、内視鏡室に救急カート、心電図モニターが配備されたとのこと。
判示の中でも、具体的な救命措置についての認定に特色があります。
病院が提出した記録には救命措置の時間経過、患者のバイタルの経過が一切残されておらず、心電図モニターの記録用紙も紛失したとして提出されず、エコー、内視鏡の表示時刻と医師らの説明内容が大きく相違しているという状況を前提に、「このように、花子に対する救命措置の時間的経過について、医療機関である被控訴人が客観的資料を何一つ提出できないという事態は、花子に対する救命措置現場の混乱ぶりを如実に示すとともに何らかの不自然さを拭うことができないばかりでなく、本件訴訟における注意義務違反の立証に関する不利益、すなわち、内視鏡検査における局所麻酔薬による重篤な副作用が生じたときの本件病院の救命措置態勢の欠陥、ひいては、担当医らの救命措置における注意義務違反を推認させるという不利益を、被控訴人が負うべきであるといわなければならない。そうすると、本件証拠をみるに、花子に対する担当医らの上記救命措置が適切なものであったことについては、これを認めるに足りる証拠は未だ不十分といわざるを得ない。その結果、花子に対する救命措置に関して、担当医らに要求される迅速かつ適切な治療行為を行うべき注意義務違反に違反したものと推認するのが相当である。」と。


・函館地裁平成17年10月13日判決
くも膜下出血で発見されたチマメ状脳動脈瘤クリッピング術中の動脈瘤破裂により重篤な後遺障害が残ったことについて、術中破裂への対策を怠った注意義務違反を認めた判決です。
チマメ状脳動脈瘤は術中破裂の危険が高いこと、鑑定人はチマメ状脳動脈瘤の術前には頸部内頸動脈の確保、前床突起を含む前頭蓋底の十分な骨削除、クリッピング前のテンポラリークリッピングの使用を必ず行っているとされること、こうした準備の必要性等を指摘する文献が多数あることから、チマメ状脳動脈瘤へのクリッピング術前に上記の準備措置を講ずべき注意義務を認め、本件ではこれらを全く行っていないことに過失を認めました。
ただ、後遺障害の原因として最初のくも膜下出血による脳血管攣縮が関与していること、準備措置を講じても一定の障害が生じた可能性があることから、介護費用を3割のみ認め、後遺障害慰謝料も1級に相当するとしながら500万円としています。