弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

佐藤優「獄中記」

獄中記
この本の主題からは離れますが、
332頁「一級の宣伝工作の場合、「答え」(こちらにとって都合のよいシナリオ)をこちらから提示してはなりません。こちらからは、断片だけを提供し、それにより受け手が自ら組み立てたシナリオがわれわれのシナリオに偶然一致するという方向にうまく誘導することが適切です。人間は他者から押しつけられたものよりも、自ら組み立てたものに強い愛着を感じるという本性があるからです。」
判決で、原告も被告も主張していない裁判官独自の事実認定や法律構成をされることがあり、また、そういうことがありがちな裁判官がいると思います。こういうことを書いている弁護術の本は読んだことがありませんが、その背景にはこの本性が働いているのではないかと思っています。当事者の言い分の丸呑みはプライドが許さないのか、裁判官が自ら見いだしたオリジナルなストーリーに執着するということです。準備書面は幼児にわからせるようにかみ砕いて書くべしと言われますが、こういうタイプの裁判官に対しては、かみ砕きすぎた主張をするよりも、↑のように断片を示して誘導する方が良いのではないかと思いつつ、主張を理解されずに負けてしまう愚も避けたく、困ります。

08年3月6日追記:「刑事弁護の技術と倫理」を再読していたら、上記引用部分がそのまま、尋問技術の項に引用されているのを見つけました(215頁)。人間の心理を言い当てた箇所なのだとあらためて思ったので追記。