弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

判例タイムズ1263号 遺留分と相続債務・倒産手続申立棄却

民法判例レビュー判例評釈家族 福岡高裁平成19年6月21日判決
高裁判決も原審も金融法務事情にしか載らなかったようなので知りませんでした。遺留分権利者の負担する相続債務についての考え方を示したものです。遺留分と相続債務の問題は前から疑問だったので興味深く読みました。「相続させる」遺言があった場合、相続債務は遺言に関わらず法定相続分で分割承継されると解するのであれば、遺留分の計算の際、遺留分権利者に承継される相続債務が加算されることになりますが、この判決は、「相続させる」遺言によって指定を受けた者が相続債務も全て承継するとして、遺留分の計算の際に、遺留分権利者の負担すべき相続債務は加算されないという判断です。ただし、「少なくとも相続人間では」という限定が付されており、相続債権者との関係は留保されています。判旨疑問の評釈です。
東京高裁平成19年7月9日決定
民事再生申立で債務者に粉飾決算、補正に応じない、一部の債権者を債権者名簿に記載しない等の事情があっても、「申立てが誠実にされたものでないとき」にあたらないとして、申立を棄却した原決定を取り消したものです。「申立てが誠実にされたものでないとき」とは、「真に再生手続の開始を求める意思や、真に再生手続を進める意思がないのに専ら他の目的(一時的に債権者からの取立てを回避し、時間稼ぎを図ること等)の実現を図るため、再生手続開始の申立てをするような場合など、申立てが再生手続の本来の目的から逸脱した濫用的な目的で行われた場合をいうものと解すべきであって、再生手続を行う過程で解決されるべき事項について債務者に至らぬ点などがあったとしても、これをもって不誠実ということはできず、もとより、債務者の行為に対する懲罰という意味あいなどを含ませることもできないものというべきである。」と。評釈でも触れられていますが、実務では、再生でも破産でも、何らかの「至らぬ点」をとらえて「懲罰」的に棄却するまたは棄却すると脅かして取下を迫ることがたしかにあり、そういうときに援用したい裁判例です。