弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

桐野夏生「IN」

IN
前情報なしで移動中に読んでて、これって「死の棘」だよねえ?とモヤモヤしてたのを、戻ってやっと確認できたのでスッキリ。すごい、すばらしい、さすが桐野です。わたし信者かもしれません。矛盾する部分もわざとに違いありません。
村上春樹1Q84」と続けて読んだので、虚構と現実の相互作用みたいな軸が共通してると思いました。でも「1Q84」だとその相互作用の描写が小説の中の設定にしかみえないというか夢物語感を感じてしまいますが、「IN」だと凄みに圧倒されてほんとにそうだ!と思えてしまうのです。
1つの事実について、人による受け取り方の違いと記憶の変容を経て、いくつもの主観的真実があるということは、弁護士業務を通じてよく経験することで、そのあまりにもな食い違いっぷりに直面して人の心理の妙に感心することがこの仕事のおもしろさの1つでもある(楽しまないとやっておれません)ということを、錯綜する語りを読みながら思い出してました。
あと、同じ世界を目指してたはずの対の男女の一方が陰に回り世に出ないという例は、当業界でもよくみられることで、ほんとにそれでよかったのかあんたの方が優秀じゃないかとひそかに思うこともあったりするわけで(とはいえ弁護士の適性とは優秀さだけじゃなく糞度胸や野生の勘との総合力で、こればかりは実務の場に放ってしばらくおいてみないとわからない)、「IN」で描かれている妻の鬱屈みたいのは古い時代に限った話ではないと思ったりします。
特設サイト。音注意
「たいせつな本」
「語る:桐野夏生さん 長編小説『IN』(集英社)刊行」