弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

家庭裁判月報第61巻第7号 子の引渡の保全等

東京高裁平成20年12月18日決定
子の監護者指定、引渡の保全処分を却下した原審判を変更し、仮の引渡を認め、監護者仮指定を却下した高裁決定です。父である抗告人のもとで事実上監護されていた3歳男児を母が連れ去ったケース。保育園に無断で入り込んで連れ出したという態様。申立は連れ去りの翌々日。長いですが、引用します!
「別居中の夫婦の間における子の連れ去りに対処するための法的手段としては、審判前の保全処分として未成年者の仮の引渡しを求める方法と人身保護請求による方法とが存するところ、最高裁平成11年4月26日第一小法廷判決・判例タイムズ1004号107頁は、離婚等の調停の進行過程における夫婦間の合意に基づく幼児との面接の機会に夫婦の一方がその幼児を連れ去ったという事案について、同幼児が現に良好な養育環境の下にあるとしても、その拘束には人身保護法2条1項、人身保護規則4条に規定する顕著な違法性があるとして、幼児の引渡請求を認めている。また最高裁判例は、共に親権を有する別居中の夫婦の間における監護権をめぐる紛争は、まずは、こうした問題の調査、裁判のためにふさわしい家事審判制度を担当し、また、そのための人的、物的な機構、設備を有する家庭裁判所における審判前の保全処分によるのが相当であるとの考え方に立っているものと解される(最高裁平成6年4月26日第三小法廷・民集48巻3号992頁は、人身保護請求の要件が充足される具体的な場合を示すについて家庭裁判所の手続が先行することを前提としている。なお、最高裁平成5年10月19日第三小法廷判決・民集47巻8号5099頁(特に、可部恒雄裁判官の補足意見)参照)。
そして、本件は、相手方による未成年者の連れ去りがあった後、抗告人から直ちに申し立てられたものであるところ、このような場合、人身保護法による請求の場合における法的枠組みをも考慮して、申立の当否を判断することが上記の最高裁判例の趣旨に沿うものと考えられる。特に、既に説示したような相手方による連れ去りの態様は、上記最高裁平成11年4月26日判決の事案と比しても違法性が顕著であるというべきところ(本件は、別居中の共同親権者の一方が他方の監護下にある幼児を連れ去った行為について未成年者略取罪の成立を認めた最高裁平成17年12月6日第二小法廷決定・刑集59巻10号1901号の事案にも類する事案であるということができる。相手方は、平成20年×月×日から×日までの間に未成年者と会わせるという約束を抗告人が破ったなどと主張しているが、その証拠として提示するファクシミリ送付書によっても必ずしもその事実は認められない上、相手方の主張を前提としてもその行為を正当化することはできないというべきである。)、申立ての根拠とする法令の選択によって裁判規範が著しく異なることとなれば、結局、人身保護請求に先んじて審判前の保全処分が活用されるべきであるとする最高裁判例の趣旨が没却されてしまうことは多言を要しない。
以上の検討によれば、本件のように共同親権者である夫婦が別居中、その一方の下で事実上監護されていた未成年者を他方が一方的に連れ去った場合において、従前未成年者を監護していた親権者が速やかに未成年者の仮の引渡を求める審判前の保全処分を申し立てたときは、従前監護していた親権者による監護の下に戻すと未成年者の健康が著しく損なわれたり、必要な養育監護が施されなかったりするなど、未成年者の福祉に反し、親権行使の態様として容認することができない状態となることが見込まれる特段の事情がない限り、その申立てを認め、しかる後に監護者の指定等の本案の審判において、いずれの親が未成年者を監護することがその福祉にかなうかを判断することとするのが相当である(原審は、子の引渡は未成年者の保護環境を激変させ、子の福祉に重大な影響を与えるので監護者が頻繁に変更される事態は極力避けるべきであり、保全の必要性と本案認容の蓋然性について慎重に判断すべきものとしている。この点、その必要もないのに未成年者の保護環境を変更させないよう配慮すべき要請があることはそのとおりであるとしても、審判前の保全処分が対象とする事案は様々であり、事案に応じて審理判断の在り方は異なるから、これを原審のように一律に解することは失当であるといわざるを得ない。殊に本件においては、明らかに違法な行為によって法的に保護されるべき状態が侵害されて作出された事態に対して、それが作出された直後におけるいわば原状への回復を求めることの当否が問題となっているのに、その事態を審理判断の所与の出発点であるかのように解し、原審のいうように慎重に審理判断したのでは、既に説示した最高裁判例の考え方に明らかに反し、家庭裁判所に期待された役割を放棄することとなるばかりか、かえって違法行為の結果の既成事実化に手助けしたこととなってしまう。また、このことは、違法行為の結果を事実上、優先し、保護するような状況を招来するから、結果的に自力救済を容認し、違法行為者にかえって有利な地位を認めることとなりかねない。そのような対応では、実力による子の奪い合いを助長し、家庭裁判所の紛争解決機能を低下させるばかりか、元来趣旨としたはずの未成年者の福祉にも反する事態へと立ち至ることが明らかであって、本件のような事案を前提とした場合、原審のような枠組みで審理判断をすることは明らかに相当性を欠くというべきである。)。」
「多言を要しない」と言いつつ、ずいぶん丁寧に説き起こしてくれています。

東京高裁平成20年7月4日決定
子の引渡の間接強制について、原審1日10万円→1日3万円とした決定です。脇道ですが、任意に引き渡したが子(10歳)が応じないとの主張について、請求異議の事由として主張する可能性を示唆しているのがなるほどと。引き渡せの債務名義に対して、いちど引き渡したけど戻ってきたといえば、請求異議ですね。
岡山家裁津山支部平成20年9月18日決定
面接強制の間接強制に関する決定。