弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

紛争考

・あらゆる紛争において、ゴールはただ2つといえます。すなわち、法的解決による終結(裁判官の判断、執行等強制手段)、または、当事者の意思による終結(合意または断念。局面によっては「断念も解決のうち」です)です。
・そして、当事者が自らの意思により紛争を終結させるのは、法的解決に打って出るより良い(マシである)と思えばこそです。紛争に関わる当事者以外の者(手続主宰者や代理人)が、当事者をその「意思による紛争の終結」へ導くためには、法的解決の弱点(問題点と限界)を正しく把握しなければなりません。
・法的解決の弱点とは。法的解決に内在する問題点として、結果のリスク、結果までのコスト(時間と費用)、正面から争うことによる関係のさらなる悪化があります。
・また、法的解決の限界として、たとえば、離婚したい有責配偶者、子の親権を望む父、算定表を超えた婚費・養育費を望む当事者、水準を超えた慰謝料額を望む当事者、面接交渉を拒否したい当事者にとって、多くの場合(もちろん例外はあります)、法的解決はその望みを満たすものではありません。そして、法的解決がそのような結論となる背景には、何らかの理念があります。
・紛争に関わる者は、当事者をその「意思による紛争の終結」に導きたいのであれば、手続中の適切な段階を選び、法的解決の弱点を知らせてゆくことになります。そのとき、「裁判所ではこういうことになっている」と結論を言うだけではただの押しつけであり、当事者の理解を得るためにその結論の背景の理念から説き起こす方がよいわけです。
・とはいえ、理念を説いたからといって、当事者がそれを直ちに受け入れるものでもありません。→「調停考・説得考
・そうであっても、「当事者の意思による紛争終結」が法的解決より善いと信じるのであれば(常に善いわけではありません。善いかどうかの判断を誤らないために、法的解決の帰結とその確度をよく知る必要があるわけです)、その信じるところを当事者に伝えることだと思います。
・なお、紛争とは、ともかく終わらせること自体に一定の価値があるということも、当事者には意外と気づかれないところです。当事者によっては、「解決したい」より「やっつけたい、こらしめたい」がまさって、「常在戦場」という心理にあります。そうしたときでも「紛争を終わらせたい、解決したい」という理性もあることを信じて働きかけ、「解決へ向けて」という気持ちを当事者自身の中に発見させることです。ともするとこの働きかけは、手続に時間がかかることにより当事者が疲れ果てるという形で、結果的に(必ずしも意図的ではないはずですが)果たされてしまっていますが、もうすこしスマートな方法がないものでしょうか。