判タの「争点整理手続における口頭議論の活性化について」のようにごまかして書くことなく、裁判所が事前準備を十分に行うべきことを指摘しているので好感を持ちました。
統計ですが、件数が多い「その他の損害賠償」ってきっと主には不貞慰謝料ですよね。もう取り出して一項目としてしまえばよいのにと思いますが難しいのでしょうか。
非典型的な損害賠償請求事件など比較的複雑困難な事件が増加している中で,適切かつ迅速な審理を実現するためには,裁判所と当事者との間で的確に争点等についての認識共有を図る必要性がより一層高まっている一方で,認識共有の困難性も増大している。そうである以上,手続に携わる裁判所及び代理人は,認識共有を進める上で何をすべきかを十分に意識しそれぞれ必要な役割を果たしていくことが求められる。この点,裁判所においては,単に当事者の主張反論を促して対比するだけでなく,釈明権の行使や暫定的心証開示を適切に行い,口頭の議論を活性化させることが重要である。そして,このような役割を適切に果たすため,①釈明権行使等の際に,裁判所の問題意識や根拠,思考過程を具体的に説明する,②口頭の議論を活性化させるため,集中的な口頭の議論を行う期日を事前に予告して準備を促すといった工夫がされており,裁判所と弁護士会との間でも争点整理のプラクティスに関する意見交換が行われているところである。
もっとも,前記のとおり,裁判所の心証開示等が不十分であるとの認識を持っている代理人もなお少なくなく,当事者と認識を共有するという意識自体が希薄なのではないかとの印象を受ける裁判官もいたとの指摘もある。そこで,裁判所としては,事前準備を十分に行った上で,自らの認識をより意識的に示し,当事者との間で積極的に認識共有を図っていく必要があると思われる。釈明権の行使や暫定的心証開示については,争点整理に対する裁判所と代理人のアプローチに違いがあり,代理人の関心がその時々の裁判所の心証に集中しがちであること等をも踏まえ,裁判所の意図がより正確に伝わるよう,具体的な方法を更に検討することが必要であるし,認識共有ができたことを明示的に確認すること等も求められよう。また,認識にそごが残るおそれを減らすとともに,共有された認識の内容を客観的に確認できるようにするという観点から,争点整理の結果の記録化の在り方について引き続き検討することも必要であろう。さらに,メリハリのある争点整理手続を進め,真の争点に審理を集中させるためには,大まかな審理計画についても裁判所と当事者との間で認識を共有しておくことも有益といえ,そのための方策についての検討も課題となる。
他方,代理人には,争点整理は裁判所が主導的に行うものとして受動的な姿勢で臨むのではなく,争点の解明に主体的に関わり,共通基盤の形成を裁判所と協働して行うという発想をより強く持ち,当事者本人からの事情聴取などの事前準備を十分に行うことはもちろん,主張書面の作成においても実質的な争点を意識した記載を心掛けるなどすることも望まれるように思われる。また,上記のようなアプローチの違いを超えて,争点整理が双方向のコミュニケーションを通じて認識共有を目指すプロセスであることについてのイメージを共有し,裁判官による釈明権の行使や暫定的心証開示はこのようなプロセスの一環として行われているものであることへの理解をより深めることも必要であろう。そして,裁判所と弁護士会との間での協議の場を利用してこれらのプラクティスを更に洗練されたものとするだけでなく,そのような協議に参加していない裁判官や弁護士にも協議の成果を還元し,具体的な争点整理の改善に結びつけていくことも求められる。