弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

2006-01-01から1年間の記事一覧

小林秀之「破産から民法がみえる」

ISBN:453551531X:image:small 民法と破産の接する場面について、民法の規律、破産法の規律、具体的あてはめが紹介されています。 しばらく実務をやれば、これらは自然にわかってくることですが、巻末に種明かしされているように、この本は破産法の初学者が読…

屋宮久光「南の島のたったひとりの会計士」

生まれ故郷である奄美大島に戻って開業した公認会計士の奮戦記です。 奄美大島で公認会計士の需要があるものか、高校生で島を出た当時には見えなかった島の人の気質、等様々な苦労が… …とだけいうと、特殊な環境の特殊な物語のようですが、“専門家として、専…

伊東乾「さよなら、サイレント・ネイビー」

地下鉄サリン事件で死刑判決を受け上告中の豊田被告人の同級生である著者による、事件の分析です。出してくれる出版社がなくて、開高健ノンフィクションに応募し、受賞して出版に至ったという労作。 全体の調子が一貫せず、話があっちゃこっちゃいく感がある…

ジュリスト1324号 家族法座談会

・特別座談会 家族法の改正に向けて(上) この座談会、おもしろいです。大村敦志先生がおとなしく仕切り役で、水野紀子先生が暴れ回ってる。“水野先生は家族モデルを否定するようでいながら実はあるモデルを非常に堅く想定しているんではないか”という、窪…

判例タイムズ1221号 相続ピットフォール

・名古屋地裁平成17年12月21日判決 司法書士が相続人調査で相続人の確定を誤り、その誤った調査結果を前提にした相続税申告が過少申告となった事案で、司法書士賠償責任保険の支払対象としたものです。「法務局若しくは地方法務局に提出する製作に関し…

浜井浩一「刑務所の風景」

なるほどと思ったことや、豆知識的に得たことも多いのですが、ちょっと今は子細にご紹介する時間がなくって、でもとにかく、これは読むべき本です。 刑事事件を扱うとき、犯罪や犯罪者について考えるときの視点に奥行きが加わると思います。 著者の一貫した…

関西家事事件研究会「家事事件の現況と課題」

論点ごとに(基本的に)単独の執筆者が書いた論文を集めたものですが、研究会での討議が反映されているものでは、普段、正面から語られることのほとんどない裁判官の本音っぽい意識も窺えて、読んだらいいと思います。 特に、離婚給付額の裁判基準のアンケー…

判例タイムズ1220号 報告文書特に陳述書

・研究会「事実認定と立証活動2 陳述書の光と影−報告文書を中心として」 裁判官が書証をどう評価するか等の理解が深まり、ためになりました。是非読むべきです。 メール、テープ反訳、医学文献、新聞雑誌、ビラ、中傷文書、統計資料、他の事件の判決書につ…

野々村馨「食う寝る坐る永平寺修行記」

永平寺って行っても廊下をえんえん歩くだけで特に感銘は受けなかったのですが、中にいる人々がどう過ごしているのかは興味がありました。 お寺の跡継ぎの人がほとんどで、修行はとてもとても過酷みたいです。 冒頭部の文章がやたらセンチメンタルなのはご愛…

ジュリスト1323号 破産と動産売買先取特権、相殺

「新破産法の基本構造と実務第20回」 まず、動産売買先取特権改正後の実務 田原先生から、実務の状況のご紹介。新法下でも旧法下と実務はかわらない。破産管財人はできるだけ速やかに動産を売却する。動産売買先取特権を主張する内容証明がきた場合でも、…

家庭裁判月報第58巻第11号 面接交渉裁判例4つ

判タ3冊、ジュリスト2冊たまってます。 ・大阪高裁平成18年2月3日決定 母と未成年者との宿泊付面接交渉を認めた原審判後、父が再婚し、再婚相手と未成年者が養子縁組をした事案で、宿泊付面接交渉は避けるべきとして面接内容を変更したものです。 ・京…

判例時報1943号 キシロカインでショック・チマメ状脳動脈瘤

・福岡高裁平成17年12月15日判決 患者が内視鏡手術の前処置としてキシロカインの投与を受け、アナフィラキシーショックで死亡したことについて、問診・観察義務、救命措置義務の懈怠を認めた高裁判決です。 原判決は、医師の過失を否定して患者の請求…

田村智幸「実践ローヤリング=クリニック」

北大ローのローヤリング講義の再現と解説です。 リアルな再現で(実際のことは存じないのですが)、講義の状況、講師の熱心さ、学生の意欲、到達度など、教室に身を置いているようによくわかります。 田村先生、すごいなあー。

判例時報1941号 パチンコ攻略情報と消費者契約法

判時を3冊も溜めてしまいました…滅多にない事態、ヤバイです。 ・東京地裁平成17年11月8日判決 パチンコ攻略法について「断定的判断の提供」で取消を認めたもので、素朴に考えると当たり前という感じですが、逆の結論の原審を取り消したものということ…

小松秀樹「医療崩壊 立ち去り型サボタージュとは何か」

著者の危機感と、司法界に対する苦言はごもっともな部分もあるのですが、以下の点については、お考えを整理していただきたい、誤解を解いていただきたい、と思います。 まず、クレーマー的な患者による病院・医師への攻撃の問題と、医療訴訟による「攻撃」(…

[単行本]日高恒太朗「名も知らぬ遠き島より」

種子島、屋久島、トカラ列島の島めぐりの紀行と著者の自分探しの物語です。 著者が種子島出身ということもあり、島との距離感が近く、小さな島での生活感がよく出ていると思います。島に思いをはせたいときに。

姫野カオルコ「コルセット」

ISBN:4104277029:image:small 何度か、江國を読んでいると錯覚したのは、いかにもな姫野っぽさ(自意識とか羞恥を掘り下げるところ)が薄いのと、お金に困らない暮らしでフワフワしてる雰囲気に江國っぽさがあるためか。 とにかく文章が美しい。 「反行カノ…

判例時報1940号 遅発一過性徐脈有責裁判例

・福岡地裁平成18年1月13日判決 遅発一過性徐脈を放置した事案で、医師の責任を認めたものです。 鑑定が3つあり、どれも有責結論のようです。 証拠保全時に分娩監視記録を出さなかったとか、後に出してきた監視記録には別人の記録であると「強い疑いを…

ジュリスト1321号 H15担保・執行法改正の検証

「不動産法セミナー 平成15年担保法・執行法改正の検証(1)」 平成15年改正で短期賃貸借が廃止されましたが、経過措置では、「改正法の施行時(平成16年4月1日)に現に存する抵当不動産の短期の賃貸借で、抵当権の登記の後に対抗要件を備えたもの…

宮尾登美子「地に伏して花咲く」「もう一つの出会い」「お針道具」「成城のとんかつやさん」

宮尾登美子随筆一気読み。 文章は昼間に集中して書く等、文章作法への言及もあります。 力を抜いたような随筆でも、練れた文章が本当に素晴らしい。 まだ、自伝ものとこれら随筆しか読んでいませんが、ほかのも読んでみようと思います。 80歳になられたは…

坂東元「動物と向きあって生きる」

総ルビで、冒頭の子供のころのエピソードも子供向けっぽい語りなので、大人は入りにくいかもしれませんが、後半はわりと大人向けになっています。 レッサーパンダ事件など振り返り、成功で慢心があったかもという反省も含め、率直に書かれています。 動物園…

判例時報1938号 夫婦共有名義不動産の共有物分割請求と権利濫用

・大阪高裁平成17年6月9日判決 自宅建物を2分の1ずつ共有している別居中の夫婦の夫から妻に対する共有物分割請求が権利の濫用にあたるとされたものです。 夫から妻、娘に対する仕打ちはひどいのですが、夫にも、前立腺癌で余命を考慮して財産整理をし…

家庭裁判月報第58巻第10号 死亡保険金と特別受益

死亡保険金と特別受益については前にもご紹介しましたが、今回は肯定例と否定例を1例ずつ。 ・名古屋高裁平成18年3月27日決定 妻が取得する死亡保険金の合計額が約5200万円と高額で、遺産総額の61%を占めること、妻の婚姻期間が3年5ヶ月程度…

家庭裁判月報第58巻9号 離婚訴訟の管轄

・東京高裁平成17年12月9日決定 離婚調停(妻申立)中に妻が未成年者を連れて一方的に別居して(調停は取下)、別居の3ヶ月後に夫が夫の住所地の裁判所(調停と同じ)に離婚訴訟を提起したのに対し、妻が別居先の裁判所(妻及び子の住所地)への移送を…

ウイリアム・ユーリー「ハーバード流NOと言わせない交渉術」

「ハーバード流交渉術」の応用編。 ここでいう交渉術とは、相手の気持ちを動かすことをいうのですが、弁護士にとって交渉術のスキルは、事件の相手方に対してだけでなく、依頼者、そして裁判所に対する場面でも有益なものです。 おかれた状況を分析する補助…

山田昌弘「新平等社会―「希望格差」を超えて」

前著の「希望格差社会」で深く納得したのでこれも早速読みました。 格差はあるか、格差はよいものか、格差の原因は、という3つの問いを出発点として、問いの意味自体を見直しつつ分析されています。 そして解決策の提案も。 職業がら、いろいろな方のごく私…

司馬遼太郎「殉死」

読みながら終始いらいらと、こんな迷惑な人は、西南の役のときに思い通りに遂げていれば…とまで。 途中から、三島由紀夫の夫婦が自決する小説のタイトルは何だっけ?、そういえばあれは何に殉じたんだっけ…?と、読みながらもやもやしてきて(答え:「憂国」…

判例タイムズ1216号 さいたま医療訴訟

「さいたま医療訴訟パネルディスカッション2006」 なかなか、医療者側と法曹側でかみ合っていないというか、日頃、協議を重ねて分かり合っている関係ではないのだな、という感じがしました。 医療者側からは、悪い結果が出たらとにかく結果責任をとらさ…

判例時報1935号 呼吸管理上の過失

・東京地裁平成17年11月22日判決 夜間、入院患者のパルスオキシメータのアラームが30分放置され、呼吸不全により死亡したことについて、呼吸管理上の過失を認めた事案です。 アラームが鳴ったのにしばらく放置されていたようだ、という要素を含む相…

ジョーン・ヴァーニカス著、向井千秋監修、白崎修一訳「宇宙飛行士は早く老ける?」

白崎修一先生からご恵贈いただきました。 無重力空間での人体の変化に老化と共通する特徴があることから出発して、重力が人体に及ぼす影響、老化のメカニズムについて解き明かす本です。 重力って日頃は意識しないですが、大事なものとわかります。 理屈こね…