弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

中井久夫「治療文化論 精神医学的再構築の試み」

解説によれば中井先生の「全ての発想が流れ込んだ合流点」という本書。語りはやわらかいのに語られていることの難しさ、わかるようでわからなさを全体として受け止めることによって読後の意識には不可逆的な変容が生じているマジカル。

・二次的疾病利得と正面から闘って勝ち目はない。それは天の時であって、ここで地の利と人の和をつくって実現させるべきである。

・治療者は船を浮べる水、鳥を支える空、いろいろなものを支える大地。おのれを虚しうせよ。自由にただよう注意。

・比較的順調な場合、自分は一つの虚点となり、存在しているのかどうかさえ分からなくなるが、しかもふしぎに不安がない。

・「それでよい」、「それがよいのだ」征服されることによって征服する友好的相互征服

治療文化論―精神医学的再構築の試み (岩波現代文庫)

家庭の法と裁判20号 ハーグ、少年、親権者変更

・ハーグ子奪取条約の運用状況と課題

芝池先生ほか。

・自立状態にある少年たちの特徴から見る処遇目標・良好措置における検討事項

不安定だと将来のことがイメージできない。サーチライトが届かない、小さな提灯しかない。

・東京高裁平成30年5月29日決定

母は子宮頸がん疑い、経済的不安、実家のサポート得られないなどから子の親権を父として協議離婚。父は驚きつつ子を引き取り実家で生活。母、離婚により正社員化でき、実家のサポート得られることとなり、子宮頸がんでないことが判明→親権者変更調停申立。原審は親権者変更を認めた。抗告審(解説では控訴審とあるけど…)である本決定は子が父のもとで安定しているとして原審判を取り消し申立却下。

加藤寛+最相葉月「心のケア 阪神・淡路大震災から東北へ」

これも「居るのはつらいよ」で引かれていたのだったか。

震災後半年での緊急出版的な趣の本。

PTSDは6年で7割は回復し、治療を受けても受けなくても同様。受けることで早く回復する。治療を受けても受けなくても回復できない人が3割いる。その要因はドーズ・レスポンス、脆弱性、支援のなさ、生活が復興できないことなど。

打ち明けられた場合。それ以上傷つけないように全身をセンサーにし続ける。

 

心のケア――阪神・淡路大震災から東北へ (講談社現代新書)

判例タイムズ1459号 医師の職務限定合意、養育費減額、共同経営と労働者性、胃がん結果通知遅れ、施設入所

・広島高裁平成31年1月10日決定

消化器外科部長を解任して新設のがん治療サポート副センター長に任命する配転命令について、雇用契約上の義務がないことの仮地位仮処分を認めた(認めなかった原決定を変更)高裁決定です。経緯を読むとおもしろいです。病院側の主張がケチョンケチョンですが原審はそれを認めていたわけで、その原審に対しても何言ってんだと言わんばかりの語調の強さを感じます。1週間余で3人に重篤な合併症を生じさせた上司の医師に、しばらく手術をするのは止めた方がいいと述べたことなどが問題視されたようです。

・札幌高裁平成30年1月30日決定

公正証書で定めた養育費について再婚、養子縁組による減額申立。公正証書がもともと算定表より高かった部分の取扱が原審と抗告審で違っていて、抗告審では加算分を子の総人数の生活費指数で按分しています。

東京地裁平成29年5月17日判決

未払賃金の請求について、当事者間の契約は労働契約ではなく共同経営の合意であるとして労働者性を否定した判決です。

東京地裁平成29年5月26日判決

個別健診で精密検査指示の結果通知が1ヶ月遅れた(自ら受診するまで通知しなかった)ことについて注意義務違反を認め、胃がんによる死亡との因果関係は否定し、相当程度の可能性200万円とした判決です。

・平成30年5月28日審判

自閉症スペクトラムの傾向がある事件本人に対して父親と養母が接し方を改善できないケースで児童心理治療施設入所を認めた審判です。親が本人の特性への理解がなく、自身の見解に固執していることが消極評価されています。

 

三浦瑠麗「孤独の意味も、女であることの味わいも」

女性の自伝ならひとまず読んでみるというだけだったのですが…びっくりしました。amazonのレビューに同じようなことがたくさん書いてありますが、なんか嫌いと思っている人でも読んでみたらいいのでは。

(追記↓)

headlines.yahoo.co.jp

この記事、わけわからないとか書かれているのを見ると、これだけ具体的な体験を差し出しつつ、その体験からつかんだ感覚を深めた問題提起を、これだけ丁寧な言語化であっても、わからないものはわからないのかーそうか、と無力感をおぼえます。

 

孤独の意味も、女であることの味わいも

ジュリスト1533号 弁護士倫理

「座談会 弁護士報酬と預か金管理」

完全成功報酬制(コンティンジェント・フィー)がどこまで許容されるか、医療事故周りでは気になるところで、どこから暴利なのかの議論など。海外では離婚事件での禁止(離婚を助長するおそれ)など。