弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

伊藤文夫ら編「医療事故紛争の予防・対応の実務」新日本法規

医療従事者向けの書です。
「相当程度の可能性」の平成12年最判については、同最判自体が「医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども…」と述べていることから、この判旨は、「死亡」結果との因果関係を問題とする従来の因果関係論から離れ、「生存していた相当程度の可能性」を法益(結果)として認めたものと読むのが一般的だと思います。
ところが、本書の「医療事故訴訟における因果関係」の項では、因果関係の「割合的認定論」や「寄与度」に親和的な立場が根底にあるのではないかと思いますが、平成12年最判を因果関係論からとらえ、「不作為医療事故の因果関係の立証について、判例法は判断基準を高度の蓋然性ルールから、相当程度の可能性ルールへ修正している。」とされています。
修正というより、現時点の判例の立場では両ルールは別の次元でともにあると考えるのが一般的だと思うのですが…
本書は法律家向けではなく、医療従事者向けの解説書ということなので、こういう法律上の論点については、一般的な見方を主に紹介する方がよろしいのではと思いました。