弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

姫野カオルコ「蕎麦屋の恋」「サイケ」

しばらく前に姫野さんを一気買いしました。どちらも短編集。
「サイケ」に収められた「オー、モーレツ!」等の小学生時代の描写は、「ツ、イ、ラ、ク」のそれに通じます。


蕎麦屋の恋」に収められた「魚のスープ」は、いつもの姫野さん式の主人公が脇にしりぞき、姫野さんの嫌いなタイプの男、この作中の分類でいう男子校男の視点。男子校男が、その妻である女子校女と自分が似合いであることを自覚し、似た者どうし仲良く生きていこうという物語。
また、「サイケ」の「モーレツからナイーブへ」も、男子校男(長男)の視点で、彼の感性にとっては幸せな結末を暗示させて終わる物語。
いつもながらの細部に神経のとどいた整った文章で、男子校男(長男)が男子校男(長男)たるゆえんを緻密に暴きながらも、彼らに対する皮肉や毒が実に慎ましく控えられているうえ、彼らに幸せな結末を与えていることから、このタイプの人物像への愛すら感じさせるような作品です。
このタイプの人物像に対し、エッセイでは皮肉や毒を極めながら、小説としては、勧善懲悪的に不幸せな結末を用意するのではなく、実際はこういう人々こそが幸せになるという成り行きを淡々と描くという抑制があり、作家の心中の皮肉や毒が覆われていることによって、かえってその凄みを感じさせます。