弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

家庭裁判月報第58巻第4号 子の監護者指定・引渡

子の監護者指定・引渡に関する高裁決定が4つ掲載されています。
中でも、仙台高裁秋田支部平成17年6月2日決定。
「別居中の夫婦のうちの一方配偶者甲が公然かつ平穏に子をその監護下に置き、監護を継続していたにもかかわらず、他方配偶者乙が子を無断で連れ去るなど、違法に子をその監護下に置いたため、甲が家庭裁判所に子の引渡しを申し立てた場合には、子の福祉の観点から、乙に引き続き子を監護させる場合に得られる利益と甲に子を監護させる場合に得られる利益を比較し、前者が後者をある程度有意に上回ることが積極的に認められない限り甲による子の引渡請求を認容すべきものと解される。
 なぜなら、乙が、違法な連れ去りによらず、正当に家庭裁判所に子の引渡を申し立てていれば、乙の監護によって得られる利益の方がある程度有意に甲の監護によって得られる利益を上回ることを明らかにしない限り、その申立ては認められないはずであるにもかかわらず、違法に子を連れ去ったことによって、甲がその監護によって得られる利益の方がある程度有意に乙の監護によって得られる利益を上回ることを明らかにしなければならなくなってしまうとすれば、乙が法的な手続きを選択するよりも自力救済を選択することによってかえって有利な地位を獲得することを許すことになり、違法行為を助長する結果を招き、家庭裁判所の審判によって子の奪い合いを抑え、平穏に子の監護に関する紛争を解決することが困難となるからである。また、違法に子を連れ去る行為は、法律や社会規範を無視することをいとわない行動を採ったことを意味するものでり、そもそも監護者としての適格性を疑わせる事情という側面があることも否定しがたい。」
として、甲の申立を却下した原審を取り消し、乙から甲に対する子の引渡を命じたものです。
実にはっきりと規範を立ててくれていると思ったので、長くなりましたが引用しました。
原決定は、子の心身の安定を重視するとして、現状維持あるべきを前提に、乙の監護が不相当な場合のみ引渡を認めるという判断です。