弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

家庭の法と裁判10号 不貞慰謝料、面会交流、遺産分割

・「不貞行為慰謝料に関する裁判例の分析(1)」

・東京高裁平成28年5月17日決定

別居中で子を監護している妻が夫に対して求めた面会交流申立を却下した原審判を取り消して、差し戻した高裁決定です。妻は夫の勤務先に押しかけたり、子の汚物の写真を添付したメールを送るなどの行動があり、夫はこの申立もいやがらせの一環と受け止めて手続への応答を拒んでいた経過があり、原審では面会に向けた調整は行われていなかったところ、高裁は面会交流の実施に向けての調整をせよと。

・「初任者のための遺産分割講座 寄与分の確定」

判例タイムス1436号 争点整理、時間外手当、高額所得者の婚姻費用

・「争点整理手続における口頭議論の活性化について」

口頭議論が活性化されていない理由が6コあげられてますが、「裁判官が記録を読み込めていない」ってはっきり書いてない(挙げられている「裁判所が十分な時間をとることができていない」って期日の所要時間のことのようにも読めて絶妙な表現!)のが気にくわない!

・「割増賃金計算ソフト「きょうとソフト」を活用した事件処理の提唱について」

・東京高裁平成28年9月14日決定

高収入者の婚姻費用の算定例。

判例時報2330号 養育費減額

東京高裁平成28年7月8日決定

公正証書により合意された養育費について、再婚相手との子の出生という事情変更により減額を認め、標準算定方式による金額に公正証書による合意の趣旨を反映(もともと算定表より高くなっている部分を固定額として、再婚相手の子とのあいだで生活費指数に応じて按分して加算)した決定例です。

日本弁護士連合会「日弁連研修叢書現在法律実務の諸問題 平成27年度研修版」「日弁連研修叢書現在法律実務の諸問題 平成26年度研修版」

山田知司「控訴審の審理と主張立証のあり方」(平成27年度版)と森野俊彦「最新版民事控訴審における主張と立証」(平成26年度版)を続けて読みました。

山田「控訴審の審理で争われているのは原判決ではないはずです。それに私の感覚でも、原判決がどうだとは考えたことがない」「控訴審は原判決の理由というのをあまり気にしておらず、むしろ原判決が整理した争点について自分で判断していく」

森野「審査の対象は原判決であることに鑑み、一審判決の問題点を厳しく主張せよ。」

原判決にひきずられることの有り無しのニュアンスが違います。

原判決で変な勝ち方をしてしまったときの対応→原判決に乗らない方が無難。利益衡量の結果勝たせてくれたというスジを主張するのは有効(山田)、より強固な勝訴理由を展開すべきで安易に原判決を持ち上げないこと(森野)

森野「この頃、地裁は医療訴訟専門部ですね。高裁は専門部ではないのです。けれども専門部が常に正しいとは限らない。専門部はかえって慣れてしまって、お医者さんのやることを是認する方向になると思うのですが、」

そのことよ。これはきっとどこかで使おう! 集中部は役割を終えたキャンペーン。

 

日弁連研修叢書 現代法律実務の諸問題<平成27年度研修版>

 

日弁連研修叢書 現代法律実務の諸問題[平成26年度研修版]

ケース研究329号 財産分与、対応困難者

・「財産分与に関する覚書」

東京家裁の財産分与の実務について。要チェックです。

退職金について「従前は、退職までに相当間があるような場合には分与対象とならないかのような議論があり、かつそれが有力であるような文献が散見されたが、現在の実務ではそのような考え方は採られていない。」

2分の1ルールを変更した具体例(かなり極端な資産家の例+夫を親権者として資産は子の教育資金のための蓄えとして夫に保有させるという例)

一方の資産がマイナスである場合の分与の計算。などなど。

・調停における対応が困難な当事者の事例

パネルの内容もさることながら、留意点として引用されている「家事紛争解決プログラム」の抜粋が、やさしいなあとあらためて。「対応が困難だと調停委員に感じさせてしまうその人自身が自分でも対応の困難さから逃れられず、他人に対応が困難だと感じさせながら、それを抱えて生きていくことを余儀なくされている。」このまなざし!容易なことではないですが。