弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

白石一文「君がいないと小説は書けない」

週刊新潮の連載小説で、ああいうのが叙述トリックというのかな、急にSFっぽくなった感じもうまいなあと思ったので新刊を読んでみました。想が発するままに流れゆく、こだわりオジサンのごにゃごにゃ語り、ちょっと保坂っぽいんじゃないでしょうか。ネコも出てくる(保坂ほど過剰に思い入れてはいないので助かる)。双眼鏡のピント、時間軸と体験、体験の再構成(ここ、テッド・チャンの「商人と錬金術師の門」に通じると思った)、体験の団子(回転体)、「人生とは自己確認のために無数の体験を反復し続ける団子のような回転体」、視点=私。

君がいないと小説は書けない

エリザベス・F・ハウエル「心の解離構造」

お勉強として、何日もかけて線引きながらゴリゴリ読みました。いままで読んできた助走(←ここにはほとんど書いてませんけど)があったからか、これだけの分厚さの本書ならではか、これまで以上にこの問題についてわかった感あり。何のことやらまったく理解できなかった帯文だって、今ならわかる!

・健康であるとは、さまざまな現実のあいだの空間に、それらのいずれも失うことなく立つ能力

・解離は適応的であるとともに不適応的であり、動詞であるとともに名詞であり、原因であるとともに結果である

・苦悩する犠牲者、加害者、救済者

・物語記憶、自伝的記憶

・全体はその部分の集合以上のものである。というのも全体は環境とつねに交流し、環境によって絶えず変容しつづけるからである。

・外界の対象との現実の関係は開かれたシステムにおける関係である。しかし内的世界が閉じられたシステムの形式を取る限り、外的対象との関係は転移によって、すなわち外的対象が内的現実という閉じられたシステム内の対象として扱われることを条件としてのみ可能となる。(!)

・内的な部分と外界が現実につながらない限り、内側はずっと閉じられたシステムのままであり、成長できなくなる。これらの部分が互いに分離したままである限り、彼らの信念、願望、動機における対立は問題のあるもの、葛藤的なものとして体験されることはないだろう。治療者との相互作用に部分たちを招き入れ、彼らの第三の現実を治療者とともに共有することで、初めてそれは統合的となる。治療者は、自己状態たちが互いに自らの分離した体験の諸側面をより多く共有するための、関係の架け橋として機能するのである。→相互的文脈化

・アタッチメントを諦め→関心の維持、役割逆転、上下関係などの動機付けシステムに

・統合より文脈的相互依存

・文脈づけられた自己

・一貫性、凝集性、連続性の体験は、人との関係性から生まれる

・除反応より役に立つのは、情動や記憶を他の人に伝えること(二者心理学)、そして自分のなかの他の部分たちに伝えること

・感情が経験のなかで最も重要である。感情は経験を文脈化するのに最も効力があり、経験の情動面を知らなければ、個人の物語は一貫性も意味も欠いたまま

・記憶の統合、それに続く受容と弔い

・迫害者部分は、それが当人の安全と保護にとって必要だと信じている

・交代者にはそれぞれ、存在するだけの重要な心的理由がある

・私たちは共振する音叉のようであるが、私たちの仕事は、目を閉ざしたり背けたりすることなく、事が起こるに任せることである

・虐待的環境は反省的思考の欠如をもたらす。虐待の意図=親の悪意に気づくことを回避するため

心の解離構造―解離性同一性障害の理解と治療