弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

2006-01-01から1年間の記事一覧

判例タイムズ1214号 オーバーローンの共有建物の分割方法

・東京地裁平成18年6月15日判決 原被告は建物を2分の1ずつ共有。原被告は、被告の姉が原告の元妻という関係。建物建築資金として原告は現金を出し、被告はローン負担。敷地は被告、原告の元妻(被告の姉)他の共有で、敷地利用権は使用貸借。建物には…

津島祐子「火の山−山猿記」

この作家には前から興味がありつつ今回はじめて読んだのですが、私には合わないとわかりました。 登場人物の手記というスタイルで書かれているため、作家自身の地の文体は知らないままですが、どうしてもどうしても合わず、杉冬吾として描かれる太宰の姿だけ…

家庭裁判月報第58巻第8号 義務者があえて退職した場合の養育費

福岡家裁平成18年1月18日審判 養育費支払義務者が養育費の審判において、強制執行を受けたら退職してでも抵抗する意向を示しており、現に一度も任意履行せず、強制執行を受けた後に退職し、養育費の免除を申し立てた事案で、「申立人が現在収入を得てい…

ジュリスト1318号 破産法対談・否認権(3)

支払不能概念については考えるほどよくわからなくなってきます。 以下メモ。 ・支払不能とは、現に債務不履行が起こっていることを要するか? また、弁済期の到来した債務が現在あることを要するか? 山本(和)「将来の近い時期に債務不履行になることが、…

宮尾登美子「櫂」「春燈」「朱夏」「仁淀川」

自伝四部作を一気読み。 喜和が離縁されるくだりや、綾子が困難を抱えるくだりで思うのは、自立できないとはかくも惨めなもの、ということで、これは決して過去の話ではなく、今だってこういうことはそこらじゅうで起きているのです。 綾子の満州の難民生活…

竹内正浩「軍事遺産を歩く」

日本各地の日本軍の遺構についての記録。文庫書き下ろし。 函館山の要塞、松代の幻の天皇御座所とか、まだこんなのがあるのかと思いました。 とにかく写真が説得力あります。遺構が朽ちている様子をみると60年とはやはり長いのかあと思ったり…。もっと写真…

森絵都「風に舞いあがるビニールシート」

うーん、普通にうまいと思うんだけど、なんかちょっとよくわかんなかったです。 途中で明らかに落ちが読めて(たぶん隠してもおらず)、そして予想どおりにきっちり落とすスタイル、別に落ちが読めてもいいんだけど、いちいちそんなにちゃんと落とさなくて良…

ロジャー・フィッシャー&ダニエル・シャピロ「新ハーバード流交渉術」

ハーバード流交渉術において「感情」の問題をどのように取り扱うかを論じたものです。 たしかに「ハーバード流交渉術」はたいへんためになったのですが、こちらはどうでしょう。 なるほどなと思うところもたしかに多くあるのですが…、正解として示されている…

判例時報1932号 医療過誤と訴訟代理の有効性

・大阪地裁平成17年4月22日判決 低血糖を見逃し治療が遅れたこと等について責任が認められた事案、なのですが、本筋よりも次の判示に注目しました。 「被告らは、原告ら主張の原告太郎の症状からすると、訴訟委任の趣旨を理解できていたとは考えられず…

アーシュラ・K・ル=グウィン「ギフト」

ゲド戦記の人の新作、三部作の第一部です。 「ギフト」と呼ばれる超能力を受け継ぐ血筋のおはなし。 誰も冒険に行ったり旅立ったりはせず地味なんだけど…その地味さといえば、ゲドの「こわれた腕環」(こちらは手元にないので曖昧なイメージですが)の前半の…

判例タイムズ1212号 メタタグの記載と商標権

・大阪地裁平成17年12月8日判決 サイトのメタタグに他人の商標を記載したことに商標権侵害を認めた事案です。 争点はいくつかありますが、判タの解説ではメタタグの視認可能性を認めたというところに重点が置かれています。 メタタグによる商標権侵害を…

江國香織「スイートリトルライズ」

この人のでこれが一番好きかも。 いつもどおりおしゃれっぽく地に足がついてない感じがしつつ、病みが入ってるところがいい。 「人は守りたいものに向かって嘘をつく」ということ、よって、自分が何もかも正直に接せられる愛人よりも、自分に嘘をつかせる存…

判例タイムズ1211号 薬剤使用方法に関する過失と救命措置に関する過失の判断手法

・東京地裁平成16年4月27日判決 術後せん妄状態の患者にドルミカムを投与したところ呼吸抑制→低酸素性脳症となった事案。 主な争点として、①ドルミカムの適応外投与が注意義務違反か、②ドルミカムの投与量・方法の適否、③救命措置の適否。 ①について、…

半藤利一「昭和史戦後篇」

2ヶ月かかりました。 実際にこの時代を生きてきた世代の人に当たり前のことであっても、あとから生まれた者には学ばないとわからないわけです。前篇と合わせると重たい読みものですが、時間をつくってでも読んだらいいと思います。

宮部みゆき「ブレイブ・ストーリー」

夏休みの読書的に。 いちおう最後まで読んだんだけど、うーん、悪のり気味とすら思えるRPG仕掛けに食傷してしまいました。 このひとと東野は、売れてるけど良さがわからない二大作家。

判例時報1931号 弁護士預り金の被転付適格

・最高裁平成18年4月14日判決 法人の債務整理の弁護士預り金について、法人の債権者が差押命令及び転付命令を申し立てた事案。 原々審、原審とも被転付適格肯定。 最高裁は、「委任者の受任者に対する前払費用についての返還請求権は、当該委任事務の終…

ジュリスト1317号 民訴改正後10年

特集は「新しい時代の民事訴訟法」。 個々の論文まで読めなくても、冒頭の座談会は読んだら良いと思います。 山本克己先生は弁護士の質に対して厳しい調子です。「どうも今日は弁護士の悪口ばかり言っているようで、まずいのですが。」とおっしゃりつつ。 高…

家庭裁判月報第58巻第7号 子の引渡の直接強制

「子の引渡しの執行実務」 子の引渡の直接強制の可否について議論がありますが、すでに、東京地裁執行官室、大阪地裁執行官室では、直接強制肯定説となっているそうです。 東京地裁の平成17年の直接強制事例4件が取り上げられ、2件成功、2件執行不能と…

判例タイムズ1210号 一般的でない治療法の場合の説明義務2

・大阪地裁平成17年7月29日判決 平成12年、未破裂脳動脈瘤をラッピングしてコーティングする手術を受け死亡した事案。 手術適応については、本件で自然経過による危険とコーティング手術による危険は同程度であって、第一選択の治療法として一般的に…

判例時報1930号 一般的でない治療法の場合の説明義務

・東京地裁平成17年6月23日判決 患者は平成9年乳癌診断され、被告医師の提唱する「新免疫療法」を受けたが、平成16年死亡。 新免疫療法が一般的でない治療方法であることを認定。 医師が一般的でない治療方法を試みる場合には、一般的な治療方法につ…

華恵「本を読むわたし」

ISBN:4480816488:title hanae*改め華恵となって第1作。読書感想文を寄せ集めただけのものではなく、ちゃんと一連の読みものになっていて、取り上げられている本を知らなくても大丈夫。 今まだ中学生? 若いのに本当にきちんとしてます。すごいなあ。 「小学…

判例タイムズ1209号 養育費・婚費算定

岡健太郎「養育費・婚姻費用算定表の運用上の諸問題」 以下メモ。 ●自営業者の総収入の認定と控除費目 自営業者の総収入の認定は、「課税される所得金額」に「社会保険料控除」以外の控除項目(「配偶者控除」「基礎控除」等)と、「青色申告特別控除額」、…

橋本紡「ひかりをすくう」

どういう人か全く知らずに、表紙が目にとまったので手にとってカバーの折り返しをみたら、「平坦な戦場をいかにして生き延びるか」がテーマの作家とあって、あー「リバーズ・エッジ」ね、ということで読んでみました。 甘い、甘いし若いなあと思いつつ読むけ…

ジュリスト1316号 破産法対談・詐害行為否認

「研究会・新破産法の基本構造と実務(17)」 以下メモ。 ・過大な代物弁済が支払不能後に行われた場合 160条2項と162条1項1号のイの重畳適用の問題となる ・160条1項1号処分対象財産の範囲 動産、債権等どこまで広げることができるか? 「…

判例時報1929号 家事調停について

飯田邦男「現代型家事調停事件の性格と家事調停の課題(中)」 紛争の解決手法として書いてあることはごもっともと思うのですが、でもどうーしても、ここで「現代型」と題する意味がわからないです。取り上げられている争いのタイプはむしろ古典的、典型的な…

チャールズ・ディケンズ「デイヴィッド・コパフィールド」

ジョン・アーヴィング「サイダーハウス・ルール」の中で、孤児院で毎晩コパフィールドを読み聞かせていて、このときのイメージから、もっと孤児としての子供時代が長いのかと思っていたのですが、あっという間に大人になって人生を見せてくれます。 今まで読…

判例時報1928号 上告不受理慰謝料事件

・岐阜地裁平成18年1月25日判決 受任事件について上告不受理決定を受けた弁護士が、不受理決定が憲法、民訴法違反であり精神的苦痛を受けたと国に対し国賠請求した事件(請求額100万円)、と聞くとトンデモ訴訟のようですが、中身をみると気持ちはわ…

判例タイムズ1208号 確定判決の消滅時効完成後の確認の訴え

・大阪地裁平成18年1月20日判決 確定給付判決を得た債権について消滅時効完成後に再度提起された確認の訴えに確認の利益が認められないとされた事例です。 平成4年に給付訴訟で確定判決を得て、平成16年になってそれを債務名義として動産執行をした…

中村芳彦・和田仁孝「リーガル・カウンセリングの技法」

リーガル・カウンセリングというか法律相談についてです。 後書きに、多数の著者の寄稿によるものでなく一貫して構成したテキストとしてはこの分野ではじめてのもの、とありますが、たしかにそうかもしれません、よくまとまっています。 法律相談をお役目と…

判例時報1927号 家事調停について

飯田邦男「現代型家事調停事件の性格と家事調停の課題(上)」 著者は、「どちらも正当な権利や要求を主張するタイプ」など4類型を「現代型家事調停事件」と名付け、「従来型解決困難事件」と対比していますが、これら4類型は、構造的に合意が難しい事件の…