弁護士ラベンダー読書日記

札幌弁護士会所属・弁護士田端綾子(ラベンダー法律事務所)の読書日記

判例タイムズ1461号 子の引渡の間接強制、婚姻破綻

最高裁平成31年4月26日決定

母から父に対して求めた子の引き渡しの間接強制を権利濫用とした最高裁決定です。原々決定は1日1万円の間接強制、原決定は抗告棄却でした。最高裁での逆転破棄自判。この件、もともとの子の監護者指定事件も公刊されていますね→判例タイムズ1434号 間接被害、監護者指定 - 弁護士ラベンダー読書日記 子は9歳。

・東京高裁平成30年12月5日判決

夫が離婚を求め妻が婚姻継続を求めているケース(別居7年)で、夫が妻との話し合いを一切拒絶している等として婚姻破綻を否定した高裁決定です。離婚を認めた原判決を破棄。夫の代理人弁護士(一審当時)の対応が高裁にきわめて悪印象だったのだろうなと感じます(それでも原審は認容したわけですが)。妻は本人訴訟(すごい)。

一般論としての規範を立てている部分が要注目→「 婚姻も契約の一種であり,その一方的解除原因も法定されている(民法770条)が,解除原因(婚姻を継続し難い重大な事由)の存否の判断に当たっては,婚姻の特殊性を考慮しなければならない。殊に,婚姻により配偶者の一方が収入のない家事専業者となる場合には,収入を相手方配偶者に依存し,職業的経験がないまま加齢を重ねて収入獲得能力が減衰していくため,離婚が認められて相手方配偶者が婚姻費用分担義務(民法752条)を負わない状態に放り出されると,経済的苦境に陥ることが多い。また,未成熟の子の監護を家事専業者側が負う場合には,子も経済的窮境に陥ることが多い。一般に,夫婦の性格の不一致等により婚姻関係が危うくなった場合においても,離婚を求める配偶者は,まず,話し合いその他の方法により婚姻関係を維持するように努力すべきであるが,家事専業者側が離婚に反対し,かつ,家事専業者側に婚姻の破綻についての有責事由がない場合には,離婚を求める配偶者にはこのような努力がより一層強く求められているというべきである。また,離婚を求める配偶者は,離婚係争中も,家事専業者側や子を精神的苦痛に追いやったり,経済的リスクの中に放り出したりしないように配慮していくべきである。」

弁護士の戦略についての言及→「第1審原告は,さしたる離婚の原因となるべき事実もないのに(第1審原告が離婚原因として主張する事実は,いずれも証明がないか,婚姻の継続を困難にする原因とはなり得ないものにすぎない。),南品川に単身赴任中に何の前触れもなく突然電話で離婚の話を切り出し,その後は第1審被告との連絡・接触を極力避け,婚姻関係についてのまともな話し合いを一度もしていない。これは,弁護士のアドバイスにより,別居を長期間継続すれば必ず裁判離婚できると考えて,話し合いを一切拒否しているものと推定される。」「第1審原告代理人(当時)による「別居が一定期間継続した後に行われる離婚の訴訟では(中略)日本の法律のもとでは離婚が認められてしまう」という極端な破綻主義的見解(甲5,有責配偶者からの請求でない限り,他にどのような事情があろうと,別居期間がある程度継続すれば必ず離婚請求が認容されるというもの)は,当裁判所の採用するところではない。」

判例タイムズ1461号